SAMACコラム

「海外と日本のライセンス管理の違いについて」

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投稿日:2023年11月22日 最終更新日:2023年12月12日

海外と日本のライセンス管理の違いから、これから日本で求められるライセンス管理の姿を考える

情報システム部等、ITの管理部門が担当する業務の一つにソフトウェアライセンス管理(以下「ライセンス管理」)がある。ライセンス管理とは、ソフトウェアライセンスに起因する各種のリスクをコントロールする活動である。
具体的には、ソフトウェアに起因するコンプライアンスリスクや、コストリスク対応を目的にライセンス管理は行われる。

日本のライセンス管理担当にSAMACのアンケートなどで「何を目的にライセンス管理を行っているか?」と質問すると、「ライセンス監査対応の為」と回答する組織が多い。
一方、海外のライセンス管理担当に同じ質問をすると「コスト最適化」と答える組織が多い。
日本と海外との間でこのような違いが生じるのか?その理由の考察を通じ、今後日本で求められるライセンス管理の姿を考えてみたい。

■海外のライセンス管理
グローバル企業の多くに、ライセンスマネージャーという名称のライセンス管理を専門に行う担当者が存在する。
ライセンスマネージャーはライセンス管理を通じて組織に貢献することが求められる。
また、グローバル企業の求人にはライセンスマネージャーというポジションの募集を見つけることができる。
そのため、海外ではライセンスマネージャーの業務を専門分野として、グローバル企業を渡り歩く人材も存在する。
また、特定のクライアントに対してライセンス管理サービスを提供しているメンバーが、クライアント先にライセンスマネージャーとして転職したというケースも海外では珍しくない。

また、海外のライセンス管理関連のカンファレンスに参加すると、ライセンスマネージャーが自分の実績を事例として紹介セッションがある。
そのセッションに共通していることは、「自分がライセンスマネージャーとして活動してから実現したコスト削減結果をアピールすること」である。
ライセンスの年間調達コストを前年より数十パーセント、数億円削減したとアピールするライセンスマネージャーもいれば、数十階建ての本社ビル2フロア分の建築コストに相当するコスト削減をしたとアピールしたライセンスマネージャーもいた。
それらの内容をよく聞いてみると、自分の都合の良いようにコスト削減額を計算していることに気付くのだが、
自分の実績をより大きく見せるのはライセンスマネージャーにとって重要なことである。
海外のライセンスマネージャーは、ライセンス管理を通じて組織に貢献することが求められる。
それを実現すればそれに見合った報酬が得られるが、それを実現できなければ自分は会社を去り、代わりのライセンスマネージャーが招かれる。
それゆえ、自分の実績を雇い主であるマネジメントに対して大きく見せ、自分がいかに組織に貢献していることをアピールするのは、当然のことかもしれない。

なお、ライセンスコンプライアンス強化やライセンス監査対応もライセンスマネージャーの重要な役割であるが、ライセンスコンプライアンスは実現できて当然であると考えられている。
海外のカンファレンスで「あるパブリッシャのライセンス監査を1年かけて対応し、ライセンス違反なしとして終わらせた」という話を聞いたが、ライセンス監査対応で問題なく終わらせることはある意味当たり前のことで、そのうえでコスト削減を実現しないと何の実績にもならないような扱いである。

■日本のライセンス管理
日本では情報システム部門がライセンス管理を担当するケースが多く、組織により経理部門、総務部門、経営企画部門が担当するケースもある。また、ライセンス管理は各部門が担当する多くの業務の1つとして扱われており、他の業務と兼任で担当する担当者が多い。
私も仕事柄ライセンス管理担当者から話を聞く機会が多いが、どの担当者も担当するライセンス管理を責任もって遂行している。その一方で、自分が行っているライセンス管理の重要性をマネジメントに理解してもらえないと話す担当者が多い。その反動か、自分が担当する業務の重要性を取引先に力説する担当者もたまに見かける。

また、日本でSAMACのITAM Worldやライセンスセミナーではライセンスマネージャーをテーマにしたセッションを扱うが、SAMAC以外のセミナーやカンファレンスでライセンスマネージャー関連のセッションを扱うのはまれである。日本でもライセンス管理テーマにしたセミナーはあるが、その多くはライセンス管理事例や、自社が提供するツールやサービスを用いたライセンス管理の方法など、ライセンス管理の方法をテーマにしたものである。

■ライセンス管理における海外と日本の違い


グローバルで販売されているソフトウェアの使用許諾条件は、海外でも日本でもほとんど変わらない。また、海外と日本の間で使用するPCやクラウドサービスが変わることもない。そのため、海外と日本の間でライセンス管理のために行う業務は変わらない。そのような前提の中で、なぜ海外と日本との間でライセンス管理に対する認識の相違が生じるのであろうか。
 
その要因として考えられるのが、マネジメントによるライセンス管理に対する認識の違いである。

海外でライセンスマネージャーの求人が存在するのは、ライセンス管理専門の人間を採用することは、組織にとって必要な投資であると認識されているからである。ソフトウェアは組織の全社職員が使うため、1本あたりの単価は安くても全社職員分で集計すれば、その調達金額は数千万円、数億円になるケースも珍しくない。グローバル組織のマネジメントは、ライセンス管理業務を「コスト最適化やコンプライアンス強化など組織に利益をもたらす業務」と認識しているため、ライセンスマネージャーというポジションを設け専門の人員を採用しているのである。

一方、日本で行われているライセンス管理は、情報システム部門等の管理部門の業務の一部として対応がされている。また、ライセンス管理の目的をライセンス監査対応に設定しているため、マネジメントがライセンス管理の重要性を認識することができないと考える。
ライセンス監査対応をライセンス管理の目的にすることは必要であるが、いつ来るかわからないライセンス監査対応の重要性をマネジメントに理解し認識してもらうことは難しい。

■日本で求められるライセンス管理の姿
繰り返しになるが、ライセンス管理は行うことで組織に対してライセンスコンプライアンス強化だけでなく、コスト削減という大きなメリットを提供できる業務である。
前述の通り、ライセンス監査対応をライセンス管理の目的にすることはできるが、ライセンス監査対応のみでマネジメントに対してライセンス管理導入のメリットを具体的に説明することは難しい。メリットの説明ができなければ、マネジメントによるライセンス管理に対する認識も低くなり、ライセンス管理への投資を要求することが難しくなる。その結果、ライセンス管理業務に避ける人員、予算、時間が削られ、さらに管理がおろそかになってしまうという負のスパイラルに陥る。
 
そこから脱するためには何が必要か。最も効果のある方法は、現在行っているライセンス管理の効果をコストで示すことである。
例えば、ライセンス管理の結果、1ライセンス分の調達を削減できたとしよう。この結果をマネジメントに説明する際に「1ライセンス分の調達を削減できた」と説明するのではなく、「〇〇円分のライセンス調達コストを削減できた」と説明してもらいたい。
これがMicrosoft 365 E5であればその費用はMicrosoftのサイト上で年間約8.5万円と表示されているため、「8.5万円分のライセンス調達コストを削減できた」と説明できる。調達を削減したライセンス数が10本であれば年間85万円である。
もし、具体的なライセンス調達コストの削減結果を出すことが難しい場合は、現在組織で使用しているソフトウェアの使用本数から計算してもらいたい。例えば、1,000人の組織でMicrosoft 365 E5を契約していたら、年間の調達額は8,500万円になる。この金額をベースに、ライセンス管理をすることで1%の無駄を削減できれば年間85万円のコスト削減ができるといえる。
海外のライセンスマネージャーに倣って、その効果を大きく見せるのであれば、「利益率10%の自社製品の販売で85万円の利益を出そうとした場合、850万円の新規売り上げを獲得必要がある。これと同等の貢献を私はライセンス管理を通じて行っている」と説明することもできる。 このように、ライセンス管理の結果をコストに変換することで、マネジメントに対しライセンス管理の重要性を説明し、認識してもらえると考える。この役目を担うのが、ライセンスマネージャーである。

日本でも組織に対してメリットを具体的に説明できるライセンス管理を実現する組織が多くなることが望まれる。また、多くの組織でライセンスマネージャーの重要性をマネジメントが認識し、日本でもライセンスマネージャーが活躍できる場が増えることを望みたい。

IT資産管理評価認定協会監事 公認IT資産管理トレーナー 島田篤


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